2025年7月、日本で注目された「数字」がある。
7月5日には「地球滅亡」がトレンドを席巻し、2日後の7月7日には「トリプル7」を祝う入籍ラッシュが話題となった。
同じ月に生まれたこの「破滅」と「祝福」の落差は、情報社会に生きる現代日本人の集合心理を如実に映し出している。
7月5日:「予言の日」に何も起きなかった
2025年7月5日 午前4時18分。
この時刻は、漫画家・たつき諒氏が予言した「大災厄」の時として、SNSを中心に話題となった。
実際には「日本滅亡」「世界滅亡」「地球滅亡」などのワードがTwitter(X)でトレンド入りし、
多くの人が半ば冗談、半ば本気でその時を待ち構えていた。
しかし、結果として何も起きなかった。
トカラ列島の群発地震は続いているものの、列島全体を襲うような大災害は発生していない。
これは、気象庁の野村竜一長官が6月13日に述べた以下の発言とも一致する。
「現在の科学的知見では、日時と場所、大きさを特定して地震を予知することは不可能です。
そのような予知の情報はデマと考えられるので、心配する必要は一切ありません。」
7月7日:「トリプル7」で愛を誓う
わずか2日後の7月7日。
今度は全く逆の意味を持つ「7」が、人々の注目を集めた。
令和7年7月7日――すなわち「777」が揃うこの日は、
七夕という恋愛成就の伝統行事とも重なり、入籍希望者が急増した。
ブライダル業界でも注目が集まり、「特別な記念日」として予約が殺到。
数字の持つ縁起の良さと、織姫・彦星の伝説が合わさった日であることが、カップルたちの心を惹きつけた。
不安から希望へ:わずか2日で変わる空気
この2日間のコントラストは非常に印象的だ。
7月5日は「破滅への不安」、7月7日は「愛への希望」。
数字の持つ意味が、社会の空気すら変える。
これは情報消費が瞬間的かつ情緒的に揺れ動く現代日本ならではの現象かもしれない。
情報社会が生み出す「瞬間的な集合体験」
SNSがもたらすのは「バズ」だけではない。
特定の時刻・日付に対して、全国の人々が一斉に注目することで、
まるで同じ場所に集まっているかのような疑似的な集合体験が生まれる。
- 7月5日:滅亡の時刻を待つという「緊張の共有」
- 7月7日:同じ日に入籍するという「幸福の共有」
それぞれ異なる動機でありながら、どちらも「同じ時を生きる」感覚を伴っているのが面白い。
日本人の「縁起担ぎ」文化のアップデート
日本人は古来より「縁起」を大切にしてきた民族だ。
ただし、現代の縁起担ぎは、かつてのような家族や地域単位ではなく、
ネットを通じて見知らぬ他者とつながることで成立している。
たとえば、7月5日の「予言騒動」も、
実際には「厄除け」のような心理的な儀式だったのではないかと考えられる。
皆で同じ不安を共有し、結果として「何も起きなかった」ことに安堵する。
これは伝統的な厄払いの構造そのものである。
数字がもたらす社会心理
この2日間で注目された数字は「5」と「7」。
- 5:中途半端、不安定、五里霧中
- 7:完全、ラッキー、神秘性
こうした数字に込められたイメージが、人々の心理と共鳴し、
「破滅」と「希望」という対照的な現象を引き起こしたのだとすれば、
数字とは単なる記号ではなく、文化的な記憶の器でもあると言えるだろう。
おわりに:わずか2日間に浮かび上がった現代日本の精神性
2025年7月5日と7日。たった2日間の間に起きた出来事は、
情報社会・SNS時代に生きる日本人の「今」を象徴する現象だった。
不安と希望、破滅と愛、個人と集団――
それらの対立する価値が、数字という媒介を通じて一気に可視化された。
SNS時代の日本人は、数字や日付に意味を見出し、
そこに一時的な共同体を築く。
縁起とは、もはや伝統だけでなく、現代の「繋がりの技術」でもある。
7月5日に何も起きなかったことで、私たちは「予言の無力さ」を知った。
7月7日に愛を誓ったことで、「希望の力」を再確認した。
破滅の予言から、愛の記念日へ。
この小さな物語こそ、今の日本の豊かな精神世界の断片にほかならない。
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